マッシュのオモハラおしゃれ散歩
2014.12.22

ファッション業界人が語る“私と原宿・表参道”(3)草ヶ谷和久さん

原宿・表参道と切っても切り離せないのがファッションです。そこで、このコーナーでは、この地域を舞台に活躍するファッション業界関係者にスポットを当て、街の魅力や思い出を語っていただきマッシュ!

今回のゲストは、1970年代後半からファッションアイテムを手掛け、2002年より表参道エリアでショップブルックリンミュージアムを展開してきたブルックリン ディレクターの、草ヶ谷和久さんです。

草ヶ谷和久 さん/ブルックリン ディレクター

草ヶ谷和久さん草ヶ谷和久さん

草ヶ谷和久さん
ブルックリン ディレクター

1951年、東京生まれ。若くからファッションに興味を持ち、1979年にブルックリンを創業。はじめはソックスを中心にファッション小物を展開し、のちに革小物を中心としたブランドへと転身。2002年、表参道に直営店のブルックリンミュージアムを開店する。現在はブルックリンの社長業をご子息にバトンタッチし、ディレクター職を担当。 https://brooklyn.co.jp/


高度な職人技、上質な素材、独自のデザイン性などで、評価の高いブルックリンのレザーグッズ。その製品を展開する直営店が、表参道にあります。こちらの創業者、草ヶ谷和久さんは、1970年代からファッションに関わってきた、この道のスペシャリストです。まずは、草ヶ谷さんのファッションとのかかわりからお話を伺いました。

VANヂャケットでファッションに目覚める

草ヶ谷さん:
高校時代、アイビーファッションが流行して、VANヂャケットが大きな人気を集めていました。伝統的なトラッドファッションではなく、アイビーという新しいファッションに魅了され、ファッションに興味を持ったのです。それとMade in U.S.Aカタログ(読売新聞社が、1975年に発行したアメリカのライフスタイルを紹介した本)にも憧れました。
実家は中華料理店だったので、その跡を継ぐことになりましたが、その道からは半年でスピンアウトしましてね。うちのラーメンは本当に他に負けないくらいうまかったんですよ。でも、どうしても好きな洋服の道に進みたくて。

ブルックリンは1979年にファッション製品の問屋として渋谷区千駄ヶ谷に創業しました。この時、私は27歳。この時代は、みんな独立心が旺盛で、周りの同業者も若い世代の人が多かったですね。シップスで副社長を務めた中村 裕さん、ビームスの常務まで務めた重松 理さん(現在はユナイテッドアローズ会長)のお二人は2歳年上。トゥモローランド創業者の佐々木啓之さんは4歳年上です。

ブルックリンが創業した1979年頃もVANヂャケットは大人気。しかし、ほかとは違った、そのこだわりに草ヶ谷さんは影響を受けたそうです。

草ヶ谷さん:
ボタンダウンシャツとはなんぞや? そんなことも、このブランドから教わりました。VANは洋服としてのファッションではなく、カルチャーを提案していたことに、非常に魅力があったのです。当時、VANヂャケットと、人気を二分するブランドがありましたが、同じボタンダウンシャツを作っても、両者のものは全然違う。襟のロール(自然に生まれるたるみ)の出方なんかにも違いが顕著に表れていました。

VANヂャケットから、さまざまな魅力を感じ取った草ヶ谷さんですが、そのときの記憶はのちのブルックリンの提案にも継承されているようです。

草ヶ谷さん:
VANヂャケットからは遊び心を学びました。たとえば、ノベルティでもらった小物。本来は商品を買うともらえるおみやげですが、洋服よりも、このノベルティが欲しくて買い物をしていたなんてこともありましたね(笑)。それほど、ノベルティひとつにも魅力があったのです。


ほかになかったブルックリンの提案が人気に

創業当初、ブルックリンでは、自社ブランドによる小物(主にソックス)をメインとしながら、斬新な提案をはじめていました。上質な素材や仕立て、個性のある色柄。そんなほかにないソックスで、差別化を試みたそうです。

草ヶ谷さん:
ファッションデザイナーのラルフ・ローレンは、最初はネクタイからビジネスをスタートしました。しかし、単品で物を作るのではなく、合わせるのがスーツなのか、ジャケットなのか、など、トータルでコーディネイトすることをイメージしながら、製品を開発していたようです。
ソックスも同じです。私はスコッチテリアの柄や、クリスマスにはサンタ柄を取り入れたものを作りましたね。また、クリスマス用にソックスとポケットチーフ、ボウタイをセットにして、レコードのLPジャケットを模したパッケージで販売するなど、新しいアイデアにもたくさん挑戦しました。このパッケージは関係者の受けはよかったけれど、あまり売れなかったんですよ。なにしろ、30年前のことですから、パッケージで遊ぶなんて時代を先取りしすぎていたようですね。

1984年、ニューヨークのTo Boot New Yorkが、ブルックリンのオリジナルソックスの取り扱いをスタート。こちらは現地では有名な靴専門店でした。

ソックスから革小物へ

創業当初から、ほかにない提案を続ける草ヶ谷さんのアイテムは評判となり、’80年代にシップス、ビームス、ベイクルーズグループ、’90年代にはバーニーズ ニューヨーク、ユナイテッドアローズ、ポール・スミス、トゥモローランド、ブルックス ブラザーズなど、次々と人気ショップや著名ブランドと取り組みを行うようになります。
そして1990年代頃には、主力アイテムがソックスから、レザーグッズへと変わっていきました。その一方で、英国のブラウンズやリバティ オブ ロンドン、ニューヨークのポール・スチュアートなど海外の名店からも依頼を受けるほど、評価は高まることに。

草ヶ谷さん:
革製品に取り組むようになったのは、私の叔父が革製品の職人だったことが大きな理由のひとつです。私は下町育ちですから、子供のころから、革製品の職人さんたちが、モノづくりをしているのもよく目にしていました。この職人さんたちは、私が最初に革製品を手掛けるようになったときに、ものすごくサポートしてくれたんですよ。

ついにブルックリンミュージアムが表参道に誕生

2002年に念願だったブルックリンミュージアム青山本店1号店がオープン。 2002年に念願だったブルックリンミュージアム青山本店1号店がオープン。

そして、2002年、念願のブルックリンの直営店が表参道にオープンします。そのとき、表参道を選んだ理由について、草ヶ谷さんに聞いてみました。

草ヶ谷さん:
当時のファッションの注目エリアと言えば、銀座、青山・表参道、渋谷でした。イメージしたターゲットは30歳のキャリアのあるビジネスマンで、ブランドに固執しない、本質を見抜ける人。これに一番ぴったりくるのが青山・表参道だったわけです。

最初のお店(ブルックスブラザース青山本店の近くにあった)は、路地裏でしたが、興味のある人は入ってくれるし、人気の割烹店が向かいにあったことで、いいお客さんが足を止めてくれました。また、エリアのファッション関係者の方々にもお越しいただきましたね。表参道沿いはどこも有名ブランドばかりだし、原宿だと騒々しくて大人は買い物がしづらいでしょう。その点、路地裏は落ちついて買い物がしやすいのです。そしてオープンからあっという間に12年がたちました。

2010年にはロンドンのショップ、TRUNKにてブルックリンの製品の取り扱いがスタート。TRUNKは、雑誌「MONOCLE」と同じ系列の注目ショップです。 2010年にはロンドンのショップ、TRUNKにてブルックリンの製品の取り扱いがスタート。TRUNKは、雑誌「MONOCLE」と同じ系列の注目ショップです。

思いを伝えるための直営店オープン

草ヶ谷さん:
私が創業した時代(’70年代)は国内ブランドの転換期でした。銀座や渋谷など1地区には1店舗しか出店しないというのが業界の常識。つまり、われわれのような問屋は、ひとつの百貨店に出店(取り引き)すると、同エリアのほかの百貨店やショップには出入りできないわけです。
これでは、自ずと売り上げも厳しくなるし、問屋の商売も続けにくくなります。創業から長い間、ほかの企業からの要望を汲み取りながら製品を開発してきました。が、担当するバイヤーによって「いい製品」の定義が違うことに、いつも困惑していました。
売れるものがよいものなのか? 有名なタンナー(革のなめし工場)の革素材で作ればいいのか?歴史のある工場で作ればいいのか?
私はこれらを、いいものの本質ではないなといつも感じていました。
しかし、私だけがいいと思うものを作っても、売ってくれる窓口がない。それなら、自分でお店を持って製品を紹介すれば、エンドユーザーに共感してもらえないか? と考えたのです。私自身も、ファッション製品が好きですから、その気持ちをお客様にもわかってほしい。セレクトショップや百貨店では、いくら良い製品でも、販売員の方がソックス一足のために30分から1時間をかけて説明して、お客様に納得してもらうなんて、到底できません。しかし、製品の魅力が伝えられなければ、我々に先がないのも事実です。

’90年代頃から、ファッション製品の素材や製法などの情報が雑誌で細かく紹介されるようになってきました。その結果、タンナー(革のなめし工場)の名前までお客様が知るようになった。しかし、私にとっては、いい革を使うのは当たり前です。私たちは雑誌の方から、製品に使った革について聞かれても、タンナーの名前を出しません。これは自分たちが選んだものだという自負があるから。決して、有名なタンナーの革を使用しているから、その製品がすごいわけではないのです。その革を使ったうえで、+αのどんな魅力があるのか? そんな点をエンドユーザーにわかっていただくのがブルックリンの目標です。

2014年、ブルックリンミュージアムが移転リニューアル

草ヶ谷さん:
そして、ショップは2014年の9月に神宮前5丁目に移転をしました。
こちらは結婚式場が近いこともあってか、以前よりも人通りが多いのと、若い方をよく見かけますね。新しいお店はこれまでに比べ約2倍の面積があり、商品もより充実しています。

ブルックリンの顧客には、30歳アップのキャリアウーマンが40%程いらっしゃいます。みなさんから「女性専門店でも、ベーシックで作りの良い物の取り扱いが少ないので、是非、ブルックリンで作って欲しい」と言うリクエストが多かったので、ライフスタイルをご提案出来るようにさせて頂いています。

ブルックリンはメイドインジャパンにこだわっています。日本製の何がすごいのか?いますぐにはわからなくても、後になってお客様に「こんな上質な作りだったのか!」とわかっていただければ嬉しいですね。そうして、物の本質を伝えながら、日本全体のお客様の知識が増えて、もの選びの基準をブランドの名前だけに頼らないものに変えていきたいと思っています。

草ヶ谷さんにブルックリンの製品の見どころを伺いました

店内に約30年前のクリスマス用に作ったソックスが飾られていました。
店内に約30年前のクリスマス用に作ったソックスが飾られていました。当時としては珍しい手の込んだ作りが特徴です。ブルックリンのソックスのつま先と甲部分にはリンキング加工を採用していました。これは一目ずつ目を拾い、かがるという手間の掛かる作りです。コストアップに繋がることと量産が効かないため、リンキング加工による商品を作るメーカーが減少しているなか、ブルックリンはリンキングの商品を作り続けました。通常、サイズは24~26などセンチメートルで表示しますが、こちらは草ヶ谷さんの発案で10~11と欧米風の表記になっています。非売品。

日本の牛革素材、ヤマトを使用した2つ折り財布です。
日本の牛革素材、ヤマトを使用した2つ折り財布です。それぞれ、外と中の色が異なるバイカラーになっています。各3万1,000円(税別)。

ヤマト素材の2つ折り財布の中面。
ヤマト素材の2つ折り財布の中面。小銭入れは、お札とともにスムーズにコインを出し入れできる向きに蓋を取り付けてあるのが特徴。

ヤマト素材の2つ折り財布では、お札の入る部分が表面、中面とも異なる配色になっています。
ヤマト素材の2つ折り財布では、お札の入る部分が表面、中面とも異なる配色になっています。表面と中面はステッチと革の色を変えていますが、これはわずかな縫い目の揺れでも失敗が目立ちやすいため、高度なテクニックが必要。コバ(フチの断面部)も必見。通常、大量生産品では表側を少し大きめに作り、コバはくるんで隠してしまうのですが、それだと使っていくうちに縁が擦りきれ、早く傷んでしまいます。ブルックリンでは、手間暇を惜しまず、コバを揃えて仕上げ、長く愛用できるようにしています。

店内で見つけた魅力あるアイテムたち

ブルックリンミュージアム 青山本店の店内。大人に最適な落ち着いた空間です。
ブルックリンミュージアム 青山本店の店内。大人に最適な落ち着いた空間です。

最上級を求める方のために、クロコダイルの革を使ったものも用意されています。クロコダイル素材は藍染め、柿渋染めなどバリエーションも豊富です。

このところ、流行中の女性用のチェスターフィールドコート
このところ、流行中の女性用のチェスターフィールドコート。こちらはカシミヤ10%混のウール素材で仕立てられています。ネイビーとグレーの2色が基本ですが、パターンオーダーなので、ほかの色も選ぶことができます。15万8,000円~(税別)。

店内のディスプレイに使用されているキャビネット。
店内のディスプレイに使用されているキャビネット。こちらは、草ヶ谷さんが英国で見つけ、日本に持ち帰ったアンティーク家具です。100年ほど前に富裕層が使っていたであろうもので、シャツや小物など、アイテムごとに収納場所があります。扉を閉じると、ひとつの箱になり、おそらく屋敷に作り付けではなく、旅行などの際、主と一緒に運ばれていたのでしょう。

こちらのお店では、メンズのウエアのパターンオーダーができます
こちらのお店では、メンズのウエアのパターンオーダーができます。もちろん、こちらも草ヶ谷さんがディレクションしています。価格はスーツが13万円前後~(税別)。

ほかのお店では、まずお目にかかれない色使いのレザーグッズたち。
ほかのお店では、まずお目にかかれない色使いのレザーグッズたち。また、革製品のオーダーメイドも行っているので、特別な製品が欲しいというかたは、ぜひご相談を。

本当にいいものを伝えたい。この思いを表参道から発信し続け、それが着実に多くの人に広がっているのは、草ヶ谷さんの情熱の賜物にほかなりません。この真実一路な生き方に共感したマッシュは、これからもブルックリンミュージアムを応援していきマッシュ!

ブルックリンミュージアム 青山本店
住所:東京都渋谷区神宮前5-3-9 本庄ビル1F
TEL:03-6427-1530
営業時間:11:00~20:00
定休日:水曜、年末年始
アクセス 東京メトロ 表参道駅 A1出口、B2出口 徒歩5分
URL https://brooklyn.co.jp/


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