マッシュのオモハラおしゃれ散歩
2014.11.05

ファッション業界人が語る“私と原宿・表参道”(2) 八木沢博幸 さん

原宿・表参道と切っても切り離せないのがファッションです。そこで、このコーナーでは、この地域を舞台に活躍するファッション業界関係者にスポットを当て、街の魅力や思い出を語っていただきマッシュ!

今回のゲストは、1970年代後半から原宿でメンズファッション一筋!キャシディ ホームグロウン店長の、八木沢博幸さんです。

今回のゲスト 八木沢博幸さん/キャシディ ホームグロウン店長

八木沢博幸八木沢博幸さん

八木沢博幸さん
キャシディ ホームグロウン店長

1956年、東京生まれ。デザインの専門学校を卒業。学生時代からアメリカなど海外のファッションに魅了され、’70年代後半に原宿のミドリヤ(現在の原宿キャシディ)に入社。以降、キャシディの店長として接客から買い付けまで幅広く活躍。
現在は2010年にオープンした姉妹店、キャシディ ホームグロウンの店長。
https://www.cassidy.co.jp/CASSIDY/


メンズファッションの分野で、その名を知られる名店が原宿キャシディです。
こちらは早くも’70年代からアメリカを中心に海外の魅力あるファッションアイテムを取り揃えて提案。現在も年齢を問わず、幅広い人たちから愛されています。その名物店長と言われたのが、八木沢博幸さんです。

まずは、八木沢さんとキャシディの出会いから聞いてみました。

原宿で働くきっかけは実はアメ横でした

八木沢さん:
学生時代はグラフィックデザインの学校に通っていたんです。卒業後、グラフィックデザインの会社にも勤めましたが、どうしても洋服屋の仕事をしたくて、この世界に入りました。それが’70年代後半のことです。
当時、いろいろなファッションがありましたが、私は輸入物、なかでもアメリカのカルチャーにものすごく憧れていました。

このころは、Made in U.S.Aカタログ(読売新聞社/1975年発行)が発行されて人気を呼んだ時代です。輸入物には非常に興味があったものの、当時の日本では、なかなかモノが手に入りませんでした。それでもアメ横や横須賀は、そうした数少ないモノに触れられる貴重な場所だったのです。

「洋服屋で働きたい」と思っていた当時、アメ横で社員の募集がありましてね。募集していたのは直営店のほか、輸入商品の卸売りもしていたルーフ(※現在はありません)という会社でした。会社の場所は御徒町。
行ってみると、建物が輸入商ビルという名前だったので、「ここならインポートの洋服に携われるかもしれない」という期待もありましたね。このとき、私は20歳代前半だったと思います。ところが結果は不採用。「アメ横の威勢のいい雰囲気には合わない」と判断されたそうです。ところが不採用にもかかわらず、ルーフとお付き合いのあった、ミドリヤの社長(現会長)を紹介されました。

このミドリヤとは、のちのキャシディですが、当時、お店があったのは大井町。ミドリヤは社長のお母さんが経営していた洋装店で、社長の代に変わった時に、インポート物でお店をガラリと変えたい! という思いから品揃えを一新されたそうです。私が仕事を紹介された時は、ミドリヤが原宿にお店を新規出店したばかりで人手が必要だったのです。

Made in U.S.Aカタログについて
読売新聞社が、1975年に発行したアメリカのライフスタイルを紹介した伝説的なムック本。ファッションアイテムを主軸に、スポーツウェアやワークウェア、アウトドア用品、乗り物、生活雑貨などを幅広く解説したものです。これが当時のオシャレな若者に大きな反響を呼びました。


‘70年代はアメリカンカジュアルが大人気

そうして、人のつながりでミドリヤに勤務するようになった八木沢さん。当時の原宿の様子はどんな状況だったのでしょうか。

八木沢さん:
はっきり覚えていないのですが、私が入社したのはおそらく’78年だったと思います。この‘70年代後半は、日本のブランドもアメリカのトラッドを模倣していた時代でした。この時代に雑誌ポパイが創刊されて、スケボーやフリスビーに代表される西海岸のユースカルチャーに目が向けられるようになります。

当時の原宿では、ミドリヤのほか、サーフショップのチャーリー、ストーミーなどが人気店。この頃のインポート商品はアメリカ物が中心で、その多くはジーンズやTシャツ 、トレーナー、スタジャンなど王道のカジュアルアイテムが中心です。それとは違い、さきほどのルーフにはローファーや、英国製ですがバーバリーのコートなど、トラッドな香りのするものが置いてあった。それも応募の動機でした。

今と違って、インポートものは、現地仕様のまま買い付けていますから、とにかくサイズが大きい! 今、思えば、決してかっこよくないですよね(笑)。でも、当時はモノがあるかどうかが、まずは重要でサイズは二の次でしたから。’70年代は、そうしたファッションの導入期でしたので、知らないものなら、なんでも欲しかったんです。


店内に飾られた八木沢さん直筆のイラスト。

毎シーズン、展開アイテムを元に八木沢さんがイラストを描いています。デザインの勉強をされていただけあって、実に魅力的です。雑誌メンズジョーカー11月号にも、八木沢さんが依頼を受けて、いろいろなセレクトショップのアイテムを描いた作品が掲載されています!

店名の由来は西部劇の英雄から


ホッパロング・キャシディの缶バッジ。

八木沢さん:
私の入社前のわずかな期間、原宿のミドリヤは、原宿の別の場所で営業していた時期や、屋号のなかった時代もあったようです。が、私の知っているのは神宮前4丁目(現在のキャシディ ホームグロウンのある場所)にオープンして以降です。

ミドリヤはもともと社長のお母さんの経営していた婦人洋装店の名前でした。そのため’81年に店名をキャシディに改めたのです。社長に店名をつけていいと言われて思い浮かんだのが、ホッパロング・キャシディという架空の人物。ホッパロング・キャシディは西部劇に登場する黒づくめのヒーローです。
’80年前後、私が夢中になっていたのが、米国のファッションデザイナー、ラルフ・ローレン。アメリカの雑誌New Yorkで読んだインタビューの中で、彼は子供の頃に憧れた人物を尋ねられ、「ホッパロング・キャシディには、なれないよね」と答えています。

そこでこの名前を店名に選んだのです。ラルフ ローレンの商品は’80年代初頭には、すでに西武百貨店にも置いてあって、組み合わせの妙や重ね着のかっこよさなど、その感性にとても憧れていました。

’80年代に入るとアメリカのファッションは天然素材よりもコットン×ポリエステルの製品などが増えて、合理化が顕著になります。ところがラルフ ローレンは、そうはならず、アメリカの魅力的なところを再現して見せてくれた。その世界観はお金持ちだけれども、ゴージャスすぎない、裕福さをひけらかさない、というもので、これはアイビーのライフスタイルにも通じるものです。

念願のアメリカへ行くチャンス到来

アメリカのファッションやライフスタイルに多大な影響を受けていた八木沢さん。まだ海外旅行が珍しかった’80年代初頭に、ついにアメリカに渡ったそうです。そのときの様子は、いったいどんなものだったのでしょうか。


キャシディ ホームグロウンの店内

八木沢さん:
入社してすぐ、社長と一緒にアメリカに行かせてもらう機会がありました。正確に覚えていませんが’80年代の初めだったはずです。多少は商品を買ってきたような記憶もありますが、買い付けというよりも、どちらかといえば観光目的でした。

この時代、先述の通り、私はラルフ ローレンに衝撃を受けていました。現地に行くと、ブルーミングデールズやロビンソン、メイシーズと大きなデパートのどこにでも、ラルフ ローレンの売り場があるんです。そのなかでも、特別だったのはロデオドライブ(ビバリーヒルズの高級ブティック街)にあった、ジェリー マグニンというお店です。お店の半分は自分たちのセレクトした商品を置き、残り半分にラルフ ローレンのアイテムを展開していました。ここだけはデパートとも違う特別なセレクトのものが置いてあって、いまも強く記憶に残っています。

その後の原宿キャシディ

キャシディの主軸はアメリカントラッドです。しかし、長い歴史の中で、時代によってその品揃えの変化や、移転など、さまざまな試行錯誤があったようです。

八木沢さん:
基本はトラッドなものから変わっていませんが、昔に比べるとファッションがいろいろなジャンルに細分化されてきましたね。そのため、多少、カジュアルよりになったり、トラッドよりになったり。また、ヨーロッパ物を仕入れたり。あまり流行じゃないものを扱っていたこともありましたね(笑)。でも、いつも主軸は、やはりアメリカントラッドでした。

歴史を振り返ると、原宿キャシディとしては’81年にスタートして、’85年に6丁目に移転(現在の場所)。移転後、当初のお店の物件(現在、キャシディ ホームグロウンのある場所)は倉庫代わりに確保はしていながら、’90年代に少しレディスのショップをするなど、開けたり閉めたりしていました。
2010年にキャシディ ホームグロウンをオープンさせましたが、こちらは売れるものよりも、自分が着たいものを置いているという空間です。

最初はオヤジのたまり場にしようなんて言ってたのですが、実際には若い人もたくさん来てくれて(笑)。いま、古めかしいものが人気という流れもありますからね。若い人に興味を持ってもらえるなんて、ありがたいと思っています。


左)オープン当初の店頭。右)現在のキャシディホームグロウン

この秋冬のオススメアイテムはコレ!

ここで、八木沢さんに、オススメのアイテムを紹介していただきました。キャシディ ホームグロウンならではの、品揃えは必見です!


2万4000円(税別)

こちらは八木沢さんがデザインしたオリジナルのツイードジャケット。
腰のポケットは二重構造でマウンテンパーカ風に横からも手が入れられます。裏地はペイズリー柄。胸ポケットの裏地を引っ張り出すと、チーフを挿しているように見える遊び心もたまりません。東京の工場で作られていますが、タグにはメイド・イン・ダウンタウントーキョー(東京下町製の意味)と表記。



4万4000円(税別)

英国のブランド、バラクータのブルゾン。
こちらのモデル、“G9”はバラクータを代表するモデルで、キャシディの創業当初から取り扱っている定番です。英国製。




各6800円(税別)

オリジナルで作ったジョンソンのマフラー。
アメリカ・バーモント州のブランドです。細めの幅や、ブランケットステッチ(毛布のような縁の糸かがり)が特徴です。もともとはアウターに使う、ちょっと硬めの生地を使用しています。同系色ですが、奥と手前の製品は少し柄が違います。




各3万8000円(税別)

サイルマーシャルというドイツのブランド。
マッシュが一番気になったアイテムです。キャンバス素材を使ったノスタルジックなデザインに、鮮やかな色使いのコンビネーションが新鮮です。



品揃えももちろんですが、八木沢さんの温厚な人柄が、とにかく魅力のこのお店。八木沢さんとお話をすると、多くの業界人が信頼を寄せるほか、長年通う顧客が大勢いらっしゃる理由が、よ~くわかります。
安心して、ショッピングが楽しめる、この名店。まだ訪れたことがないなら、ぜひ足を運んでみてください。
次回もお楽しみに!

キャシディ ホームグロウン
住所:東京都渋谷区神宮前4-29-8
TEL:03-3470-6970
営業時間:12:00~20:00
定休日:木曜日
 
原宿キャシディ
住所:東京都渋谷区神宮前6-6-4
TEL:03-3406-3070
営業時間:11:00~20:00
定休日:第三木曜日
 
HPは2店舗共通です。https://www.cassidy.co.jp/CASSIDY/


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