第41回「表参道 けやきビル」
全ての建築は似てると言われれば、似てます。
「センセ! 伊藤病院の前に建った新しいビル、観た? フランク・ゲーリーのビルにそっくりなんだけど、ああいうの有り?」と私の授業を受けたことのある卒業生の一人から質問を受けた。どれどれ、と観に行くと確かに、1996年、プラハに建てられた、フランク・オー・ゲイリーの「ダンシング・ハウス」を思い起こさせる。
似てるちゃ、似てるわけですけどね。建築の場合、デザインの真似が問題になることはさしてない。全ての建築は似てると言われれば、似てますもん。特に近代建築と呼ばれるチョイと古い建物などは建物表層の装飾が違うだけで、建物の平面や立面、屋根の形態などは同じようなモノが多い。常に人と違うデザインをしたいと思うのが建築家ではあるが、時流に乗ったデザインも気になるわけで、アールヌーボーやアールデコ、機能主義とかメタポリズム、ポストモダン等々、建築史の中での注目エポックはある。デザイン上、どこまでが時代の潮流として認められ、何が盗作で、どこまでが踏襲と言われる範囲なのかの判断は難しい。
学生諸君にとっては、優れた建築デザインをコピーすることはとても大切。
実は、私の設計製図の授業や卒業研究などの設計においては、大きな声では言えないが、真似は自由だ。「お〜いいよ、コルビジェ風な。ザハ・ハディッドも面白いけどな」などと私は真似=盗用に関しては全く意に介さない。デザインを盗むと言っても盗みきれるモノではない。設計時にそのビッグネームな建築なり建築家を勉強しなければ盗めないわけで、学生であれば、その為に実行しなければならない調査研究の方が意義深いと思っている。「どこまで盗めるか、やってみ」というのが私のスタンスだ。
デザイナーのオリジナリティーとか独創性などを求める段階にない学生諸君に取っては先人のコピーでも良いのだ。何故このようなデザインにしたのかを学ぶことの方が重要で、何故今回の課題にこのデザインが相応しいのかの説明義務を考えねばならない。デザインを真似ているうちに、課題で設定されている敷地に合わないとか、全体のプロポーションが妙なことになったりで、諦めることの方が多いのだ。
表参道 けやきビル。設計者・團紀彦氏の枯渇しない才能。
で、今回の「表参道 けやきビル」である。設計したのは團紀彦(だん のりひこ)さんだ。建築家・團紀彦さんについては、この「建築観察ゼミ」の連載、第18回 「HOLON L/R 」に詳しいのでここでは省略するが、華麗なる一族の系譜の中で人も羨む学歴、受賞歴を誇る。だからといって、似て見えるのを払拭する理由には全くならないが、彼の才能は既に枯渇しているなどとは思えない。
確かに、建物の形態は、フランク・オー・ゲイリーの「ダンシング・ハウス」に似てるとも言えるが構造の形態は全く異なる。今回のHUGO BOSS(ヒューゴ ボス)が入る、商業ビルは彼のオリジナルと言える。
敷地はほぼ正方形で、2つの前面道路を持つ角地である。隣の敷地には伊東豊雄氏がやった「 TOD’S 表参道ビル 」がある。そこに、TOD’Sビルのデザインに勝るとも劣らないビルを計画するのは至難の業だったと推察する。TOD’S に失礼のないようなデザインで有りながら自らのビルも主張しなくてはならない。ほぼ円形に近い平面計画になったのは至極当然のことのように思える。
カーテンウォールのビルではなくV字型の断面を持つコンクリート打ち放しの柱を傾けて使っている。鉄骨鉄筋コンクリートの柱の型枠は合板ではなく木摺(きずり:厚10ミリ前後の小幅板)を使っている。結果的に、お隣の TOD’S ビルと違和感なく調和し、表参道の街並みを形成している。
「中央付近がくびれた聖火台みたいなビルがあってもいいんじゃないの。ボクは好きですけどね」と質問してくれた美人卒業生に答えておいた。
ビー) まぁ、美人が嫌いな人なんていないだろうけどさ〜。
ビー) まぁ、建物にも美人ってあると思うんだよね〜。
カー) え?!
ビー) この表参道けやきビルと、隣のTOD’S表参道ビルは、美男美女のカップルのようだね〜。
カー) 美人卒業生の前で格好つけてたのね。ハイ、ハイ(´。` ) =3