第30回 スカイゲート
チャリツー(自転車通勤)始めて早6年目の私・モコモコ博士でございますが、毎日、朝晩このビルの角を曲がってるのよ。いつも気になっているビルで、調べてみたら、私の出た学校(日大理工建築)の先輩、椎名英三の設計でした。日大の建築つう所は、意匠系の著名人が少なく、構造で売ってるようなところがあるのね。「構造の日大、意匠の早稲田、両方いい東大」なんて昔は言われてましたから。そんな中で、貴重な意匠系の椎名さんです。意匠って日本語で言うデザインの事ね。
見ての通り、赤の階段がチャーミングで、このビルを主張してますね。この唐突な違和感が素敵で、ついつい見上げちゃうビルです。ビル名は外部階段の入り口部分、黒の御影石に「HOUSE ONE」とあるのよね。「建築MAP東京」(TOTO出版)には「スカイゲート」とあったんですけど、「HOUSE ONE」なのか「スカイゲート」なのか、どっちが正解なんでしょうね。基本的な構造は鉄筋コンクリート造で、打ち放しの仕上げを採用し、上の赤の階段は鉄骨で造ってます。建ってる場所は、青山通りの「子供の城」に向かって左側、細い道を明治通りに向かい、下り坂の途中、左側にあります。角地に建ってて、赤い階段が目印です。
その赤い階段を上って行く4階と5階部分は、住宅のようですね。地下もあるみたいですが1〜3階まではオフィース空間になっているようです。住んでいる人にしてみれば、打ち放しのパブリックな階段を上がって、赤くなったところから自分の住まいを無意識に認識させるような工夫で、暗に自分のテリトリーが確認できて、アプローチとしては上手い方法といえます。
単純明快なオフィース部分の外観デザインに対して、上部の住居部分は、何やら複雑にできてます。鉄骨やアルミの骨組みにガラスを使って軒や庇を付けてますね。屋上部分には半円形のガラスドームまであって、どんなインテリアなのか気になります。ネットを含めたメディアでの紹介は殆どなく、想像するしかないのですが、このビルのタイトルが「スカイゲート」ともありましたが、5階の居室が空に向かって開かれ、天空の門となっているのかしらね。是非、一度お邪魔したい所ですが、夏、熱くないかしら、どうなってるんだろう。(椎名さんのホームページに「Sky Gate 1990」として、Architecture 2のページに紹介されてます。スゲー事になってます)。
夏、暑いと言えば、この打ち放しコンクリートは概して夏は暑いっすね。当然、冬は寒いってことになります。と言うのは、今、人気の外断熱はこの打ち放しには成立しないので、外部の温度がそのまま建物の構造駆体を暖めたり冷ましたりします。内断熱をきちんとしておかないと、内部にいると夏はムッとするし、冬は底冷えします。冷暖房コストが上がっちゃうってことです。
安藤忠雄という今人気の建築家がいますが、彼が好んで使う意匠が打ち放しです。インテリアにもそのまま打ち放しの壁を使ったりすれば、内断熱もないことになりますから、冬などは建物全体がキンキンに冷えてしまい、注意しないと冬には結露が発生したりすることもありますね。
それでも打ち放しの質感が好きな人は採用するわけです。「なによ、あれ、未だ工事中みたいな感じで、アタシはきらい」という人も多いわけで、建築家の多くは好きなんですが、万人受けする仕上げではないとも言えます。打ち放しは、木造建築で素地のモノを好む日本人特有の嗜好で欧米では殆どない仕上げですね。
決して安い仕上げではないんです。中に入っている鉄筋を保護するためもあって、30ミリほど余分にコンクリートの打ち増しが必要ですし、使う型枠も新品を1回のみで、もの凄い神経を使っての型枠工事があってコンクリートを打設します。打ち放しには防水効果はありませんので、表面には撥水材と呼ばれる塗料が塗られ、雨にさらされても濡れ色が出ない工夫が施されています。タイル貼っちゃった方が建設コストとしては安い場合が多いですね。
話は横道にそれちゃいましたが、この「スカイゲート?House One」には、きちんと内断熱はなされている筈です。外観を見ても、実に細かな配慮があちこちにあり、施工も非常に丁寧です。階段の手摺りなどは特注品と思われますし、何故か、階段を支える打ち放しの壁に、縦に細長くアナが開いてたり、地下から立ち上がる御影石の小壁には丸い小さな穴が4つ、3ヶ所にあります。1階の出入り口ドアの横に大きく縦長のスリットも3本入り、来訪者を部屋内部から確認できる工夫も美しく、さりげなく計画されています。
何と言っても秀逸なのは、コンクリートの打設の美しさです。補修塗料を使っている跡は見えるのですが、素人さんには判らないもので、壁や階段の段裏、床スラブの裏側など打ち放し部分の美しさは立派です。大胆且つ繊細に設計・監理されているビルで、なかなかここまでできるのもではありません。日大の意匠もなかなかに立派なのです。
ついでながらお隣のビルです
ついでながら、最後にもう一つ、直ぐ左隣に建つ「銀杏荘」。この建物も違った意味で面白く、いいんですよ。昭和20年代に建った建物で、宿泊施設です。数年前(2006年)に閉館してますが、この辺で¥4,000以下で泊まれる所って、ここしかなかったんですから。なんと、運営してたのは東京大学だったようです。だから名前が校章にもある銀杏(いちょう)なんですね、きっと。地下1階・地上3階で、客室は21室。会議室や談話室、宴会場などがあって、一般にも開放されてました。文科省共済組合が建物の老朽が主な原因として、閉鎖をきめたんだそうです。
基壇状の御影石と使ってる外壁タイルが何とも郷愁をそそり、各階に回っている白い鉄パイプの手摺りが昭和の時代を感じさせてくれます。ついでに見てちょうだい。
カー) そうだね。建物も名前にあったデザインだよね。
ビー) なんか映画のタイトルみたいだよね!
カー) それはスターゲイトだよね。
ビー) 航空関係のサービス名に最適だね!
カー) それはもうあるよね。
ビー) パソコン作りそうな名前だよね!
カー) それはビル・ゲイツだよね
ビー) ホームラン打ちそうだよね!
カー) それは元中日のゲーリーだよね
ビー) ヨハン・ヴォルフガング・フォン・・・・
カー) ゲーテだよね。
ビー) ノリいいね!