第32回「STRADA」
山陽堂書店の裏の小路を入ってみましょう
表参道の交差点から直ぐの所に建っているが、青山通りや参道からは全く見えない。交差点の交番横の細い路地、山陽堂書店の裏の小路を入ってチョトと行くと左側にあります。このページの第26回で紹介した「 LEMON TREE 表参道ビル」のちょうど真裏ですね。せっかくのビルで人目に触れることが少なく残念な気がしないでもないんですが、実は見えない方が、・・・・です。
同じく第18回で紹介した「HOLON L/Rビル」の設計者と同じ、團紀彦さんが設計した建物で、團紀彦さんについては、第18回に詳しいのでそちらを見ていただければ、華麗な略歴であることが分かります。へ〜、こういう建築家なんだ、みたいな印象を持って読めるかと思いますので、是非。地下鉄の交番裏、A-3の出口を出て1分とかからない場所ですので、是非行って見てください。
さて、STRADAと名付けられた2つのビルでありながら1つとして計画されています。このSTRADAの意味が英語の辞書にはなく、イタリア語で「道」という意味らしいのですが、どうなんでしょう。
正面に向かって左側のビルは専門学校の「青山ファッションカレッジ」が入っています。休憩時間にぶつかると、実にファッショナブルな生徒たちがぞろぞろと外に出てきて、彼ら、彼女らのファッションを見るだけでも楽しめます。私のようなハゲのオッさんにはマネのできないファッションを実に上手く着こなし、流石にファッションカレッジの生徒さんなのです。
向かって右側のビルには、地下に焼き肉のお店、1階にはメイク関連なのかしらね、美容ディーラーと称する会社が入ってます。「美容商材の販売から、イベントやセミナーの開催、情報誌の発刊、スタジオ運営、コンサルティングに至るまで、美容業界の発展に貢献するべく邁進しております」とネットにある会社です。多分2階もこの会社がお使いで、その上3階には、美容外科・美容皮膚科・アンチエイジングなどを専門とするクリニックが入ってますね。地下の焼き肉屋さん以外は、理容、美容、服飾関連の方々が使っているビルで、お洒落に関連するものばかりで、さすが表参道って感じではあります。そして建物もお洒落なんですよ。
何と言っても華麗なる一族出身の團さんの設計ですから、少々メンテナンスが不足かなとも思えますが、ハイソな感じを受けます。竣工は1991年ですから既に築20年を超えていますね。外壁の腰の部分には蛇紋(じゃもん)系の大理石や御影石が貼られてますし、見上げれば幕板のごとくに帯状に蛇紋が配されています。一部コンクリートの打ち放しが見えますが、型枠に木板を使い、コンクリートの表面にその木板の跡形が出るよう意識した凝った物です。加えて、表面が錆色になっているコールテン鋼と言われる耐候性のある鋼材の板を素材のまま使ってます。一見粗雑に見せている表面と、吹き付け材と大理石の幕板できれいに仕上げた外壁とを対比させ、双方がそれぞれに表層を主張して面白い外壁を見せています。
奥にはシュールな空間が
そして、注目すべきは中庭です。この2棟の建物は隣接する2つの敷地に建っている全く別の建物です。その全く別の建物をこの中庭が繫いでいます。敷地境界を跨いで1つの建物が物理的に繋がる以上に、見事に一体化させています。残念なことに学校の許可を得ないとこの中庭には入れませんが、外からでも十分に見渡すことはできます。決して大きくはないのですが、敷地境界を跨いで円形のオープンなスペースを作っています。ルネ・マグリットやジョルジョ・デ・キリコを思わせるような幻想の空気を包み込んでいるような気がしちゃうんですよね。
チョイと思い過ごしかも知れませんが、シュールな空気を感じます。「街の神秘と憂鬱」というキリコの絵、ご存じないかしら。あの絵の中にある空気感みたいなものがここにはあるのよ。ない? 考えすぎ? そう? じゃーアナタ、見てきてちょうだいませよ。
こういう空気感を持つ建築って、なかなかないんですから。小さな中庭ですけど、表参道の喧噪から1分と離れていない所にあることが凄く不思議なのよね。敷地も決して大きくなく、中庭も狭い場所ではあるんですけど、團紀彦が何かを意図して作り出した、何もない物で満たされている不思議な空間なのよね。團さんはここに何を表現したかったのか、哲学的に考えてもイイかもしれないような空間なんですよ。この空間がなければ私はこのページにご紹介はしませんでしたね。
要するに、表参道という現実からチョット隠れた敷地に、見慣れた都市風景から乖離した場所で、現実にはあっちゃいけないような非現実的な空間があるってことなんですのよ。絵画などでは幻想絵画とかシュールレアリズムとか言われる、額の中の、2次元の世界にはあるんですけど、建築としての3次元の世界にあってもいいのかしら的な何か、夢想的と言うか、実はないのに、ここにあるような、え、ウソ、の小さな幻想空間なんですよ。
誰しも心の中に潜在しているトラウマや悪夢、病的な妙なイメージを内包しているような中庭。宗教的な啓示や神話や民話の世界の、精霊や妖精なんかが浮遊してるように感じません? 超現実の世界が中庭に淀んでいるようなさ。瀧口修造って言う詩人がいるけど、その詩の世界みたいな、音楽で言えば武満徹の音楽みたいな、世界なのよ。チョイと支離滅裂かも知れないけど、そんな空気を私は感じちゃったんでございますよ。
是非、一度、山陽堂書店裏の小路を入って見てください。
カー) あれ?ビー今日はやけにノってるね
ビー) あ、わかる?今日はパーティーいくんだ
カー) ネクタイなんかしてすごくお洒落だよ
ビー) あ、わかる?僕だってファッショニスタの一員だからね
カー) よっ!ビーカー界のカリスマ!
ビー) おい、よせよ〜照れるじゃないか〜
カー) まんざらでもなさそうだね
ビー) おっと、もうこんな時間か。じゃあ行ってくる
カー) お気をつけて〜
ビー) ・・・・・・・・・・・・
ビー) って、なんでやねん!!!
ビー) ビーがパーティ行って、ワイン50cc入れてくださいってか!
ビー) ・・・・・・・・・・・・
ビーカー) ハイハイハイハイッ、僕たちビーカーズ!
ビーカー) どうも〜ありがとうございました〜